トップ > 保護犬・保護猫検索 > 小笠原諸島・御蔵島等自然環境保護活動事業 特設ページ > 概要説明

小笠原で野生化してしまったネコの保護と譲渡  小笠原諸島・御蔵島等自然環境保護活動事業 公益社団法人 東京都獣医師会 ベテリナリーアドプション内 特設ページ

概要説明

島ネコ マイケルの大引っ越し

母島南崎において実際にあった話を環境省が絵本にまとめました。
※環境省 関東地方環境事務所

その絵本を、当サイト用にスライドでまとめましたので、ご覧下さい。

おとなのための「解説」

「島ネコマイケルの大引っ越し」(編集・発行:環境省関東地方環境事務所、2012年3月発行)より引用

世界自然遺産・小笠原諸島

 小笠原諸島は、東京都心の南1000㎞に浮かぶ島々。東京都小笠原村。品川ナンバーの車が走っています。この島々は、一度も大陸とつながったことがない「海洋島」です。何千万年も前に島ができたときから、人間を含むすべての生物は海によって大陸と隔てられてきたのです。このため、本州や東南アジア、オセアニアなど様々な地域から「泳ぐ」か「飛ぶ」か偶然にも「流される」か「風によって飛ばされてくる」かしてたどり着いたごく限られた生き物を祖先としています。そして、隔絶された島の中だけで独自に進化した小笠原固有の生物種の楽園になっています。だから、海水に弱いカエルやミミズもいませんでしたし、ほ乳類は空を飛べるコウモリだけでした。そのかわり、鳥のフンや羽に紛れて運ばれたカタツムリがミミズの代わりに土をつくり、植物の種は鳥やコウモリが運んでいました。とても特別な、世界でここにしかない生態系がつくられました。
 このような特殊な環境の中で生き物たちが形づくった生態系は世界にも類が無い価値を持つとして、2011年6月に小笠原諸島は世界自然遺産となりました。

小笠原の自然に迫る危機・外来種問題

 最初に小笠原に人が移り住んだのは、1830年のことです。それまで、島にはネズミもネコもヤギもブタもいませんでした。しかし、その後、人に持ち込まれた、あるいは資材などにくっついてきた様々な生き物、つまり外来種が島々にやってきました。

写真  これらの外来種は自然環境を破壊していきます。例えば、ネコやネズミは固有鳥類や海鳥を襲います。ヤギやネズミの好物である植物は集中的に食べられ、世界に残り数株という絶滅寸前の危機にある植物もあります。ネズミやブタはここだけにしかいない貴重なカタツムリを食べます。父島・母島の昆虫類も、アメリカから来たグリーンアノール(トカゲ)やオオヒキガエルの食害で絶滅したものもあるといわれています。動物だけでなく外来の植物も同様に悪影響を及ぼします。東南アジア原産のアカギ、オーストラリアから来たモクマオウなどの樹木が小笠原固有の森林を侵食して森を占拠しています。
 このように猛威をふるう外来種は、世界で唯一の「海洋島の特殊な生き物・生態系」を存亡の危機にさらしています。まさに世界遺産としての価値が外来種によって食べられたり、追いやられたりしようとしているのです。もちろんこれら外来種の対策が進んできていたことが評価されて世界遺産に登録されたのですが、これからも外来種との戦いは続いていきます。

侵略的外来種としてのネコ

 小笠原は暖かいため、本州などでは家に住むクマネズミが、山中に高密度に生息しています。クマネズミも生態系を破壊する侵略的外来種で、小笠原のノラネコの一部は山中でこのクマネズミを主食にしながら生活していると考えられます。ネコはとても有能なハンターで、永年人間と生活してきていても、その性質は変わっていません。したがって、小笠原では容易に自然に分け入り、山の生物を獲って暮らすことが出来ます。当然、ネズミだけではなく、時には鳥も捕食します。この鳥たちは小笠原固有の鳥であることが多く、ネコはこれらの希少な鳥たちを絶滅させる大きな原因の1つとなっています。

母島南崎で実際にあったこと

写真  この絵本に描かれた「マイケル」の話は、ほぼ実話です。小笠原には父島と母島の2つの島に人間が住んでいます。その母島の最南端が、この話の舞台「南崎」です。南崎には、小笠原で唯一となった有人島の海鳥の繁殖地があり、母島の人々にも愛されてきた場所でした。カツオドリとオオガミズナギドリの繁殖が毎年確認されていましたが、毎年その数が減り、全く繁殖がなくなり、そしてたくさんの海鳥の死体が発見されたのです。

 小笠原で鳥類の調査研究をしているNPO法人小笠原自然文化研究所がこの死体を調べたところ、死体の羽軸に残る歯形から犯人としてネコが疑われました。そこで自動撮影カメラを仕掛けたところ、このカメラに写っていたのがこの絵本の主人公「マイケル」だったのです。マイケルは、自分より大きなカツオドリをくわえていました。
 この事態を重く見た環境省、林野庁、東京都は、自然文化研究所や母島の住民の方々の協力を受けてこれらのネコたちを捕獲することにしました。しかし、このとき問題となったのは捕獲後のネコの扱いです。山に戻すわけにはいかないし、野性味たっぷりのネコは引き取り手が見つかりません。殺処分するとすれば、社会的な合意が得られないおそれがありました。毎年、飼い主のいないイヌやネコが、およそ20万頭も殺処分されている実態を考えれば、このようなネコの殺処分は当然とも考えられます。しかしその一方で、外来種対策として捕獲された動物を殺処分することに異論を唱える一部の動物愛護団体から抗議を受けたり、さらに中止になったりした事業もあります。
 こういった状況の中で、小笠原から持ち出したネコを引き取ってくれたのが東京都獣医師会に所属する獣医師さんたちでした。「鳥は小笠原でしか生きられないけど、ネコは都会でも幸せになれる。」という獣医師さんの言葉から、ネコも鳥も幸せになる、この絵本の捕獲プロジェクトが始まったのです。
 その後母島では、ネコの好きな人も嫌いな人も鳥が好きな人も、皆が協力し南崎に「ネコ侵入防止柵」が建設され、ネコの捕獲も継続しています。カツオドリはまだ戻ってきていませんが、オナガミズナギドリは順調に回復し、2011年には、18羽巣立つことが出来ました。自然文化研究所により作られたこの柵は、環境省によりリニューアルされ、2代目になっています。
 そうそう、その後のマイケルですが、幸せ太りで、今はふっくらしていますよ。

父島東平でのネコ捕獲事業

 南崎での初めてのネコ捕獲の後、新たな問題が持ち上がりました。父島東平におけるアカガシラカラスバトの危機です。
 アカガシラカラスバトは、この地球上に100羽程度しかいないとも言われる、正真正銘の絶滅危惧種です。我が国でも絶滅の危険性がトップクラスに高い鳥であることは間違いありません。このハトを襲おうとしているネコが目撃されました。調査員が間に割って入り、ことなきを得ましたが、日常的にこのようなことがあることは容易に想像されました。
 実は以前から問題にはなっていたのですが、ネコの捕獲については関係者の意見が相違していてすすんでいなかったのです。そこで南崎の成功を機に、東平でもネコを関係者が共同で捕獲することにしました。予算がないので関係行政の担当者と住民のボランティアによる持ち回りで、繁殖期である12月から3月までの4ヶ月間の捕獲から始まりました。この捕獲を契機に関係機関が集まり「小笠原ネコに関する連絡会議」が発足しました。その後、2010年1月から環境省による父島全域、通年の捕獲が始まり、2012年1月までに150頭以上が捕獲されました。捕獲されたネコたちはマイケル同様、東京都獣医師会に引き取り・馴化(飼いならし)をお願いしています。ワナにかかった子ネコが捨てられるなど様々な問題がありますが、このところアカガシラカラスバトの巣立ち数が増加してきています。

今後のネコ対策の展開とお願い

 小笠原のネコ対策はドンドン進んでいます。しかし、対策は捕獲だけではありません。小笠原では、村の条例で飼いネコを登録することになっていますし、2010年にはマイクロチップの挿入が義務となりました。今後は島内のネコが増えないようにするため、飼いネコの不妊去勢を徹底し、屋内飼養するなど責任ある飼い方を推奨していくことが必要です。
 小笠原でネコを飼うと言うことは、小笠原の自然環境のためにも大きな責任を負わなくはならないのです。また、不妊去勢や屋内飼養は、ネコの病気や事故を減らし、寿命を延ばすと言われます。
 もちろん当該の引き取り協力者(獣医師さんと飼い主さん)を増やすことも重要です。小笠原の自然を守っていくため、是非ご協力をお願いします。人と関わるネコという外来種の対策は、島の中、外、1000kmの距離を超えてどちらの協力も不可欠なのです。

もう一つ、最後にお願い

 小笠原の自然を守るため、大変残念なことですが、環境省や関係機関は、ネコ以外のノヤギやトカゲなど多くの外来種を殺処分しています。この島でしか暮らせない多くの命を守るため、仕方なく行っていることです。外来種とはいえ、決して命を粗末にしているわけではありません。食べるために動物を殺す、作物を守るために害虫を殺すことと同じように、とても大切な理由があることは、もうご理解いただけたと思います。

写真  もし、お子様に聞かれたときは、生き物の命を守ることの大切さを教えてあげてください。私たちの活動は、自然と生き物の命を守るための活動です。この趣旨が誤って捉えられ、理由なく生き物を殺すことを当たり前と感じる大人を育ててしまうことを恐れています。  外来種は悪い生き物ではありません。悪いのは持ち込んで放置した人間です。小笠原にお住まいの方や来島される方には、植物や昆虫も含め、今後新たな外来種を持ち込まないようお願いします。